書名 歌集 歌舞伎の郷 響叢書第43篇
著者 原島勝子
発行 2024年8月14日
いりの舎
定価 2,750円 10%税込
町中が歌舞伎役者にと職員の夫も演じし日本駄右衛門
満席の子ども歌舞伎の会場に下駄の音響き声よく徹る
かへりみれば母に俳句を姑に短歌を学ぶわれの来し道
書名 歌集 百四歳の春
著者 中里富美夫
発行所 文芸四季の会
発行日 令和6年(2024)5月1日
今年5月に104歳を迎えた中里先生の歌集だ。
若輩の私共にはわからない未知の世界の境地、
青草という俳号を持つ著者は、毎日俳句1句・短歌1首を心掛けている。
その中から選んだ短歌であるという。いくつか紹介しよう。
幾たびか辛酸を経てようやくに百四歳の峠に至る
茶寿という夢のほかには財産も地位も名誉も我は望まず
楚々と咲くいとしき花の名はアザミ心の花と決めて久しき
歌枕尋ねる旅を果たせずに足弱りしは口惜しきかな
自分史を書けばそくそくと湧きてくる幼きころの父母の恩愛
私にはまだ見えぬ先の先の世界、戦争という厳しいものを乗り越えて、
今は九四歳の独居を楽しんでおられる。
いやあ、私は自分史先へ筆が進まずにいるがやはり甘えているなあ。
この酷暑の日々を
どうぞうまく乗り越えてお元気でいてください。
書名 与謝野晶子の百首
著者 松平盟子
発行 2023年7月7日 初版
発行所 ふらんす堂
長い時間をかけて与謝野晶子を研究した歌人、松平盟子が解説する百首。
若い頃の短歌と、何人もの子供を産み育て齢を重ねて人生の喜びも苦しみも体験した
晶子の短歌は年々変化をしてゆく。
短歌を始めた頃の強烈な印象深い短歌の数々は確かに精彩を放ち、世間も驚かせた。
しかし、今でもどこか観光地へ行くと、どうも晶子の短歌に出会う。
明子が宿に宿泊したというので色紙が飾られていたり、お寺の境内でさえも歌碑が建ったりしている。
ことしはNHK大河ドラマの影響もあって、なおさら短歌に触れる機会も増える。
夫を失った紫式部が書いたのは源氏物語だが、夫を亡くした晶子がそれを思うとき
自分は数え年で還暦を迎え、もう若くはないなあと考える。
生涯でいかに多くの歌を残し、文章なども残したか、驚くべき結果である。
若き頃の歌がいろいろ言われることには、晶子はもっと今を見て欲しいという気持ちでいたようだ。そう、人間は絶え間なく変わっていくものだ。
人生は長く険しくて楽しいことばかりではない、でも生活苦と戦いながらも多くの子供を産み育て、家庭を守り、夫に尽くした。
並みの人間には到底できない努力と才能である。
書名 俵万智 史上最強の三十一文字
KAWADE夢ムック 文藝別冊
発行 ㈱河出書房新社
発行日 2017年6月30日 初版
一日を全部自分に使える日 書き継いでゆく牧水の恋
ポストまで朝の散歩をしておればカバン持つ人みな急ぎ足
短歌を知らない人は簡単そうだと読むが、知ってる人はその短歌の陰に隠れた工夫などを考える。
簡単そうに見えて簡単ではない俵万智の短歌。
初めてご本人を見たのは、ある大学の舞台の上での対談だった。
客席から見上げる彼女は遠いが、きらりと輝いていた。
思った通りの聡明で可愛い声の印象だった。
真っ黒な紙にライトが当たり、反射していた。
あとでその時の印象を詠んだ私の短歌。
万智ちゃんを初めて見たの真っ黒な髪に天使の輪が輝いている
同時代を生きている俵万智は、研究対象にするには私には無理すぎる。
それだけ広範囲で深いアンテナは張れない。
俵万智も好きだけど、やはり私の尊敬する一番の歌人は齋藤茂吉だ。
勿論、俵町の短歌を真似ることもできないけれど、齋藤茂吉の短歌を真似ることはさらにできないことだ。できることは自分流の勉強を重ねて自分流の短歌を紡ぎ出すだけだ。齋藤茂吉の短歌は、私には難しすぎて理解できないものもたくさんある。
だからこそ、研究するやりがいもある。
しかし、短歌の世界で俵万智の功績はとても大きい、それは短歌を詠む人ならだれでも実感していることだ。コロナ禍をへての現在の短歌ブームにも大きく影響を与えている歌人だ。
編集 現代学生百人一首運営委員会
発行 東洋大学
発行日 2024年2月14日
担当 東洋大学総務部広報課
今年度の短歌作品応募数は、6万3606首。短歌は首(しゅ)と数える。
学生であればどなたでも応募でき、国内だけでなく海外からも応募がある。若者の応募者最多数のこの中から選ばれた100首。読みごたえがある。
小学生の応募は212首だったので、別枠で「小学生の部」として10首が選ばれている。
なつやすみみんなバイバイさみしいなおうちでふたりがっこうごっこ
横浜市立十日市場小学校1年(神奈川県)
詠者 餐庭愛唯(あいばめい) 7歳
それ以外で選ばれた入選作百首の中から、「秀逸作品」として15首後個々に評されている。大変な倍率で選出された作品だ。
二年ぶりおかえり前髪寝癖たち引退すれども早起き続く
東京都立片倉高等学校3年(東京都)
詠者 小野田礼人 18歳
前髪命の高校生たち、高校野球でも昨年丸坊主でない髪形が話題になったっけ。
部活を引退後好みの髪形を楽しむ気持ちがよく表現されている。
また、日本語学校・海外協定校 優秀作品として3首が挙げられている。
十二月良いお年をと言ったけどまた会いたいと君に言えない
シーナカリンウィロート大学3年(タイ)
詠者 ワーワー インタワォン 21歳
作品集から作品を引用させていただいた。
東洋大学ホームページでも発表されている。
穂村弘さんの短歌の本をいくつか読んでいる。
めくってびっくり短歌絵本 穂村弘・編 全5巻
全5巻のうちの2冊を読んでみた。
(1) 書名 そこにいますか 日常の短歌
著者 穂村弘 絵 西村敏夫
発行日 2011年7月10日 第7刷
発行所 株式会社岩崎書店
価格 本体1400円+税
表紙の裏の文章を引用
短歌は、五・七・五・七・七の三十一音からなる短い歌です。
日々のふとしたことがらを短歌で楽しみましょう。
日常の短歌を十四首収録。
*この文章は縦書きなので、漢数字を使っている。とても気に入った。
なぜかというと、三十一文字ではなくて三十一音と書いてあるから。
どうしても、短歌を三十一文字ともいうのでそれに縛られがちだが、
この絵本では三十一音と表現している。とてもよい。
14人の作者の短歌を紹介している。
私は斎藤茂吉の短歌がすきだが、今まで気づかなかった作品が載っていた。
さまざまの工夫をしたる鍵ありて諸国の町に運ばれてゆく 斎藤茂吉
(2) 書名 納豆の大どんぶり 家族の短歌
著者 穂村 弘 絵 寺門孝之
発行日 2011年8月30日 第4刷
発行所 株式会社岩崎書店
価格 本体1400円+税
*題名の短歌は、笹公人さんの作品
十二人家族のつくる納豆の大ドンブリのねばりを思え
穂村弘さんの短歌は
目薬をこわがる妹のためにプラネタリウムに放て鳥たち
そして斎藤茂吉の短歌は
みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる